第16話 僕の仕事

毎朝僕はママンを散歩に連れて行くんだよ。僕は家の周りの地図が頭の中に入っているから、散歩のコースは僕が決めるんだ。いつも同じ道を歩くのはつまらないから色々と考えて、車があまり通らないところを選ぶんだよ。その時に気をつける事は、もし車が前後からきたときは道の端によって車が行くまで止まっているんだ。前にも言ったと思うけど、ママンは右手が全然効かなくてアームホルダーをつけてるんだ。左手だけで僕のリードとハーネスを持っているんだよ。だから右側も注意しなければならないんだ。曲がり角とか道がたくさんあるときは、一度止まるんだ。そうすると何かあるって伝わるんだ。毎日30分から40分ぐらいママンと散歩をするんだよ。

(でも雨が降ったりあまりに風が強かったりする時はパパが今日はガウディやめたほうがいいよって言うからそういう時は散歩は中止するんだ。)

他にも注意することはまだまだあって、例えば段差があったり、でこぼこしたところを教えてあげなきゃいけない。そうそう、お散歩前には“ワンツー”を済ませてから出かけるんだ。“ワンツー”とはワンがオシッコでツーがうんちなんだよ。これは僕がパピーの時にパピーウォーカーのゆきこママが教えてくれたことなんだ。他のワンコみたいに散歩中にしちゃうと、大変なことになっちゃうからね。

(例えば途中で袋をつけないでうんちとかしちゃったら、目の見えないママンたちは拾うことができないからね。)

“ワンツー”をするときは腰にワンツーベルトをつけてビニール袋の中にするんだよ。盲導犬の子たちはみんな教えてもらうことなんだ。でもお仕事で長い時間出かけなければいけないとき、途中でしたくなったときはママンに伝えて、ベルトをつけてもらって用足しするんだよ。これはとても大事なことで、盲導犬となるべく生まれてきたぼくたちはパピー時代(まだちっちゃい頃)からしっかり教わるんだよ。

それから家の近くの病院や銀行、郵便局、薬局、コンビニなんかではまず僕はカウンターを探すんだ。そしてカウンターの前にママンを案内するんだ。ママンはカウンターにいる人にやってもらいたい事や欲しいものを伝えて手伝ってもらう。

僕が1番困るのは、信号がわからないことなんだ。

ママンは「信号が赤になったら止まる。」「青になったら渡っていい。」って言うんだけど、僕には赤と青の区別がつかないんだ。そういう時は横断歩道があるところで待っていて、車の音がしなくなってから一緒に待ってた人が歩き出したら僕も道路を渡るんだよ。

この頃は優しい人が多くなって話しかけてくれるようになったんだ。信号が青になったとき「渡れますよ」っ声をかけてくれるんだ。

でも誰もいない信号の時は特に気をつけないといけないんだ。そういう時、僕は人の気配や車の音で判断するようにしているんだよ。

家の近くのお店とか病院は、僕の頭の中に地図が入ってるから、「銀行に行って」って言われるとちゃんとそこまで連れてってあげられるんだけど、僕が気をつけるのは遠くに出かける時例えば電車に乗るとか知らない所に出かける時なんだ。

そういう時、僕は点字ブロックを一生懸命探すんだ。エレベーターやエスカレーター、駅の改札口には必ず点字ブロックがあるからね。それと階段はなるべく避けるようにしているんだよ。ママンは手すりを掴めないからね。階段のあるところではスロープを探すんだ。

人が大勢いるところでは、ママンが他の人にぶつかられないように気をつけているよ。以前は電車の乗り換えが大変だったけど、この頃は駅員さんがすごく親切で、僕たちをホームまで連れていってくれて、電車に乗るときには駅員さんが車掌さんに行き先を伝えてくれる。電車を降りるとホームで駅員さんが待っててくれるんだ。だから僕も安心して遠くまで出かけることができるようになったんだよ。

でも僕もママンも知らない場所に行く時は、ママンがパパにノートに行先を書いてもらう。ママンは駅員さんや、道行く人に声をかけてノートを見せて教えてもらうんだ。みんなとっても優しくてママンが行きたい場所まで連れてってくれる人もいたりするんだ。はじめて行く時はとても緊張しているけど、同じところに2回ぐらい行くとなんとなく覚えられるんだ。

エスカレーターの乗り降りは何度やっても緊張するんだ。エスカレーターによって乗り降りのタイミングが違うからね。エスカレーターの右側を駆け足で行く人もいるけど、あれはとても怖いよ。ぶつかられるとママンがバランスを崩しちゃうしね。エスカレーターのベルトに捕まることができないママンがこわがっているのが僕に伝わってくるんだ。

でも僕たちが困っているときに声をかけて助けてくれる人がいる。そんな時、僕はとっても嬉しい気持ちになるんだ。

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