ぼくが富士ハーネスに来てからどのくらい経ったんだろう。
あまりにも生活に変化が大きすぎて、ぼくには理解ができなかった。
今までは僕のそばには必ずママンとパパがいてくれて、いつもいつも幸せだった。
そして僕の周りにはたくさんの友達のワンコや大好きな人たちがいつも「ガウディ」って声をかけてくれて遊んでくれた。
でもこの頃の僕の生活は毎日に変化がないんだ。
朝ケージから出してもらってトイレに行く。それからご飯を食べてお水を飲んでぐだぐだしている。お昼寝をしてから、お散歩に連れてってもらって仲間のワンコ達とちょこっと遊ぶ。家に帰ってご飯を食べたら、夜になるのを待ってケージに入る。この生活が毎日続いてる。
ぼくはだんだん自分が何なのか分からなくなってきたんだ。
ママンとパパと暮らしていた時は生きている感覚があったけど、今は何をしてるんだろう。
毎日ボケッと過ごしている。考えることが少なくなって、考えることもめんどくさくなる。
ぼくはこんなものなのか、これでいいのかなって。
ぼくは盲導犬として過ごしてきたのに。
これがずっと続くのかと思うとたまらなく嫌になる。
でもこのままじゃいけないってわかっているから、少し考えようと思う。
盲導犬仲間のスカイ。スカイは盲導犬では珍しい白色のシェパードなんだ。
それからぼくの妹で盲導犬のグラフ。皆んな頑張っているんだろうな。
友達のみんなはどうしているかな?近所に住んでいる可愛い女の子のジュナちゃん。
ジュナちゃんは黒色のラブラドールの子でまだ2歳だよ。
それからチワワのちくわちゃん、薄茶色で所々に白い斑点があるからちくわにそっくりなんだ。
だからちくわって名付けたんだって。面白いね。
それから珍しいチョコレートの色の茶茶丸。
この子は体ががっちりしてた。ぼくに会うとドーンってぶつかって来るんだ。みんなに会いたいなぁ。
それからゆきこママが連れてきた真っ白のパピーのコニー、ちっちゃいんだけどとてもお利口さんなんだ。
それとゴールデンのバルダー、黒ラブのフェイ。この子たちみんなぼくみたいな盲導犬になれるといいなぁ。ぼくの妹分、弟分が増えると嬉しいよ。みんな元気に育って欲しいな。
それから僕の家のそばに、パピーの子がいて盲導犬を目指してるんだ。その子の名前はグローリア。イエローのラブラドールの子なんだ。パパの事が大好きでぼくとパパを見かけるとめちゃめちゃ喜ぶんだよ。楽しかったなぁ。
でも今はその子たちに会うこともできなくて、だんだん忘れてきちゃう。
きっと僕のことも忘れてるんだろうなぁ。とても寂しいよ。会えないとどんどん記憶が薄れてきちゃうんだ。だからぼくはボケッと過ごさないように、いろいろ考えるんだ。まだぼくがハーネスに来てからママンもパパ来てくれてない。
なんでだろう、、、。
ぼくのことを忘れちゃったのかなあ、、、。
そんなこと絶対ありえない。
ぼくがママンとパパを恋しいのと同じようにママンもパパもぼくのことを想ってくれてるよね。
早く会いたいな。
一体いつになったらぼくのところに来てくれるのかなあ、、、。
それからしばらくして、散歩に出かける時に凄く寒く感じるようになった。
ここに来た頃はまだ暖かかったのに。
ずいぶん長い時間が経っちゃったんだなぁ、、、。
そう思ってたら懐かしい声が聞こえた。
絶対忘れることのないママンとパパの声。
ぼくは思わず泣いちゃった。盲導犬は吠えたり泣いたりしちゃいけないんだけど。
でもいいんだ。ぼくは盲導犬じゃないもん。
そしてママンとパパといつもいる部屋から出て別の部屋に行った。
そこでママンとパパとでいつもの時間を過ごしたんだ。一緒に遊んだり、ブラッシングしてもらったり、歯磨きしてもらったり、耳の掃除をしてもらったり。
ぼくにとって夢みたいな時間だよ。
その日は夜も3人で一緒に寝たよ。久しぶりに3人で仲良く居られた。
きっとぼくをお家に連れて帰ってくれるんだって思った。
次の日パパの車に乗ってコンビニに行ったんだ。いつもはママンと一緒にコンビニには入れたのに、この時はママンと一緒に車の中で待ってた。「行こうよ」ってママンに言ったらママンが「もうガウディはお店には入れないんだよ」って。
この時わかったんだ。
ぼくが盲導犬じゃなくなったってこと。
きっとママンも辛い気持ちだったと思うけど、その時のぼくはどうしようもできない苛立ちでママンの顔を見つめた。そうしたらママンは優しくぼくの事を撫でてくれて、抱きしめて大好きだよってキスしてくれた。
写真はぼくの友達
シェパードのスカイ
グラフ
フェイ
バルダー
コニー
ジュナ
ちくわ